──で、そういった最新の楽しみ方を披露しつつ、ベストアルバムの最後は、『ココロノヤミ<2015>』と『バラ色の人生』というミッチーの歴史に燦然と輝く二大名曲で締められます。やはり、収めるべきところはここですかね?

まあ、この2曲が入ってないと怒られそうだからね(笑)。あと、ご新規さまのためにも「『ココロノヤミ』と『バラ色の人生』は入れとかないとダメだよね」と自分から言って。まあ、ライブで言うならアンコールみたいな定番曲ですよね、この2曲は。

──はい、納得です。その『ココロノヤミ』は、2001年発表のオリジナルテイクではなく、2015年の再録版での収録ですね?

いやぁ、『ココロノヤミ』は2015年にセルフカバーできて本当に良かった! それはオリジナルが悪いっていう意味ではなくて…、ライブで育ってやっぱり表現が深くなっていると自負しているし、バンドも同じ方向を向いて支えてくれている感じがするからね。

──確かに、楽曲の表現度がより深化した印象を受けます。

そうですね。だから、“進化”と“深化”、その両立を目指すって言うか。伝わってこそのシンガーソングですよ!

──ちなみに、『バラ色の人生』も去年のアルバム『BE MY ONE』でリテイクしていましたよね?

『バラ色の人生<2020>』でしょう? 逆にそれを(今回のベストに)入れなかったのは…もう、いいんです。オリンピックが去年行なわれず、延期になったから。

ONE MAN SHOW TOUR 2018 「BEAT&ROSES」

──…と言うと?

あのね、『バラ色の人生<2020>』は、自分が東京オリンピックの閉会式に出演したらやろうと思って作ったんですよ。もちろん、そんな音沙汰はまったくないので、妄想で(笑)。で、これ(今回のベスト盤に収録したオリジナルバージョン)はこれで、1999年の“ニューヨーク時代”──(レコーディングで)2週間くらいしかいなかったのに、僕の中では勝手にそう言い張っているんだけど(笑)──その気分が蘇るからいいんじゃないかな、って。

──なるほど(笑)。まあ、さすがに20年以上も前のテイクなので、ボーカルは、今聴くと少し固い感じもしますが、それもまた意味があると。

そう、固いし、細い。でも、先ほど“走馬灯”と言いましたけど、どの曲も映像として思い出が蘇るっていう、それがベスト盤の意義でもあるわけだしね。で、それはきっと、僕だけじゃなく、昔から聴いてくれているベイベーたちにとってもそうだろうし。

──で、これも先ほど言われていましたが、これらの曲たちがアナログ盤という形になるっていう、それが大きなトピックでもあるんですね。

はい! アナログ盤のリリースは本当にうれしいんだよね。だって、僕が中学~大学時代はまだレンタルレコード店でLPを借りていたし──あるとき、電車の中で寝過ごして、そのレンタルしたLPを小田急線の棚に置きっぱなしのまま降りちゃったとか(苦笑)、そんな青春を過ごしてきて。やっぱり、僕らの世代にとって、アナログLPを出すっていうのは夢だったんですよ。ところが、デビューが決まり、いよいよ…と思ったら、8センチの短冊CDでデビューでしたから。今回のアナログ盤は、もちろんコレクターズアイテムとしてもオススメですけど、「僕の夢のひとつの実現」という意味でとても大きな価値を持ったリリースなんです。

──ここ近年は、時代的にアナログ盤の再評価も進んできましたしね。ミッチーも最近、アナログレコードを聴いたりはしていたんですか?

はい! プリンスの各アルバムのアナログ盤を買い集めたりとか(笑)、あとは、去年、エディ・ヴァン・ヘイレンが亡くなっちゃいましたけど、ヴァン・ヘイレンのアナログLP6枚組豪華BOXを買って聴いたりだとか…。それらを大人買いして、馴染みのバーに預けてあるわけ。

──自宅ではなく、バーに?(笑)

そう。で、良いスピーカーで聴きながら良いお酒を飲むっていう(笑)。まあ、実家には、アナログ盤コレクションとレコードプレイヤーがあるんだけれども……やっぱり、今回のリリースを機に、(自宅でも)聴けるようにしようかな?

──ぜひ。何か、アナログLPを聴くのって“豊かな音楽の聴き方”みたいに感じますよねぇ。ちょっと変な言い方ですが。

分かるなぁ、それ。やっぱりさ、正座こそしないけれども、ちゃんと向き合うんだよね。スピーカーに。そして、音楽というものに。いや、別に皆さんにそう聴いてほしいって意味じゃないんだけれども、「さあ、聴くぞ!」と盤をセットして、針を落とすっていう、一連の儀式みたいなところがあってね。あと、A面B面という考え方ってのも、世代的に根深くあるからさ。

BEST ALBUM 「XXV」2021

──…という風に、聴きどころ満載のミッチーのベストアルバム『XXV(ヴァンサンカン)』なんですが──実は今回のベスト盤CDにはもう1枚、「COVERS ONLY」と題されたカバーベストアルバムも付いていますね?

これは、もともと特典のつもりだったんです。けど結果、8曲も入っていて、ちゃんとアルバムになったかなと。

──この「COVERS ONLY」で聞いておかなければいけないのが、唯一の新録であるオリジナル・ラヴの『月の裏で会いましょう』のカバーについて。実はこの曲、「前に聴いたことがあるよなぁ…」と思って調べたら、ミッチーは2006年の「ツキノヒカリ」ツアーでこの曲をカバーしていて──

そうです! さすが、よくご存じで(笑)。

──それを当時、CD+DVDセットの『ツキノヒカリ MEMORIAL BOX』という作品の中で、ひっそりと発表しています。

そう、ひっそりと。…いや、別にひっそりと出したわけでもないんだけれども(笑)。でね、今回、カバー集を出すにあたって、もちろん新録の曲をプレゼントしたいと思い、「何の曲にしようか?」と考えたわけ。そこで、「…うん、自分の基本に戻って、オリジナル・ラヴでいこう!」と思いました。

──ほぉ。オリジナル・ラヴが基本ですか?

やっぱり、好きなのよ。まあ、渋谷系というくくりが良かったのかどうかは分かりませんけれども、僕の大学時代の憧れのバンドだったのは間違いないから。だって30年前ですよ! この曲は、1990年…いや、1991年かな?

ALBUM 「GOLD SINGER」 2004

──『月の裏で会いましょう』がシングルでリリースされたのは1991年11月。ちょうど30年前です。

やはり僕がプロを意識して曲作りを始めたとき、田島貴男さんには大きな影響を受けたんですよね。で、その田島さんとは、後に僕の『聖域~サンクチュアリ~』というアルバム(2001年発表)でも、『特別なひと』という曲でコラボレーションをしていて。僕の歴史の中で欠かせない存在ではありますね。

──そのリスペクトを今回カバーすることでもう一度形にしたという。しかし、このミッチーバージョンの『月の裏で会いましょう』は、とてもスイートで広がりのある世界観が展開していて、とても30年前の楽曲とは思えません。と言うか、まさにこれこそ“ロマンティック・ソウル”じゃないですか。

その通り(児玉清さん風に)! そういうことなんですよ。アレンジ的には原曲よりもテンポを上げて、より華やかな印象にしてます。これもCHOKKAKUさんのアレンジですけど、ホント、「まかせて安心、CHOKKAKUさん」っていう(笑)。

──(笑)そんな『月の裏で会いましょう』から始まる全8曲、とても素敵なカバー集になっています。ただミッチーは、これ以外にもカバー曲を実はたくさん発表しているじゃないですか? 今回の8曲を選ぶうえでのポイントは何だったんでしょうか?

まず、曲数を増やせば増やすほど、もともと想定していた特典ではなくなっていくので──権利関係とか予算とか…──だから「これくらいでご容赦ください」って(笑)。だって、それこそさ、今までのカバーを全曲リストアップして入れちゃったら、大変なことになりますよ。それこそ郷ひろみさんとかジャニーズとか…。

──そもそも2004年に『GOLD SINGER』というカバーアルバムも出したことがある人ですからね(郷ひろみの『2億4千万の瞳―エキゾチック・ジャパン―』のカバー等を収録)。

あの頃って、カバーすることによって歌の幅を広げたい時期だったんですよ。だから、いいんじゃないですかね、良い曲をカバーするっていうのも。あと、カバーアルバムで楽しいのは、シンガーとしての自分を客観的に見ることができるし。勉強になりますね。