ONE MAN SHOW TOUR 2018 「BEAT&ROSES」

──さて、ポップな『パンチドランク・ラヴ』、ファンキーな『FUNK A LA MODE』に続くオリジナルアルバムは2018年発表の『BEAT&ROSES』で、とてもロック色の強いアルバムでした。

そう。今回のベストアルバムにはその中から2曲、『瞬きのあいだに。』と『インフィニティ∞ラブ』が入っています。この2曲はさほどロックではないんですけど──そこはね、ベストアルバムとは言いつつも、全体の聴き心地と言うか、アルバムとしての流れを意識した結果でもありますよね。…特に『瞬きのあいだに。』というバラードは、僕自身すごく気に入っていて。

──これはもう、ミッチー・バラードの王道ですね。

まあ、それ(王道バラード)が基本、好きですし。この曲、歌詞も作曲も僕ですけど、そういう意味でも“伝えたい歌”ですね。

──で、この「瞬きのあいだに」という言葉に聞き覚えがあるな…と思って調べたら、2003年リリースのBOXセット『及川光博うっとりBOX 愛と芸術の日々』──CD5枚組+DVDで、各ディスクがコンセプトごとに選曲されていた作品集なんですが──そのディスク4に付けられたタイトルが『瞬きのあいだに』だったんですよね?

…マニアックなご指摘で(笑)。でも、そうなんですよ。あと、ファンクラブの会報に僕が直筆でメッセージを書くページがあって、そのタイトルが『瞬きのあいだに。』でもあって。だから、よほど僕の中でキーワードなんでしょうね。で、それは何かと言ったら、「一瞬」ということで──そのはかなさと美しさに心が揺れるんですよね。愛しくて。

──そうなんでしょうね。ちなみに、そのBOXセットのリリース時にミッチーにインタビューした原稿を読み返したら、この人は「“瞬きのあいだに”とは、一瞬であり、永遠である」っていう、そんなことを当時から言われていました。

あっ、それは今でもそう思ってます。それが人の人生であったり、出会っては別れる恋人たちの想いであったり…結局は僕、“命”に行きついちゃうんですよ。愛を歌いながら、最終的には命、そして死という終わりを歌いたくなっちゃうという、そういう“死生観”はどうしても出ちゃうわけ。

──そこはデビュー当初から一貫してそうですよね?

うん、最初っから。…『死んでもいい』なんて曲を歌ってるんだから。

──(笑)確かに。でも、ミッチーの音楽を聴き続けてきて感じるのは、そういう死生観を、キャリアを重ねるたびに、より分かりやすく、かつポップに伝える楽曲が多くなってきた気もしていて──

あっ、そうかもしれないです。ニヒリズムと言うか、哲学や思想を表現するときに、僕の中の照れたり茶化したりってところがなくなってきているのかもしれないな。

──そういった意味でも、『瞬きのあいだに。』は、まさに王道ストロングバラードと言えそうですね?

そうですね。とても大事な曲ですね。僕にとっては。

──あと、ソングライターとして及川光博にはこういう側面もあるってところは、世間の多くの人にもっと知らしめたい点ではありますよね?

それ、『cast』の編集部の方はそれこそずっと昔から言ってくれているし、僕だって多くの人に聴いてほしいんですよ! …もう、どうしたらいいんだろうなぁ?(笑)

──いやぁ、こういう場で繰り返し言い続けるのみ、です! 以前からも、そしてこういう2018年に発表した近作でも、及川光博は普通に聴いて「良い曲だな」と多くの人が感じるバラードを書ける人だよと。そこが大事な点だと思うので…、だから皆さんには、歌詞も含め、じっくりとミッチーの音楽を味わっていただきたいものですね。

はい(笑)。ぜひ味わっていただきたいです!

──で、そんなミッチーの資質が分かりやすく表現されているのは、『インフィニティ∞ラブ』も同様ですよね?

『インフィニティ∞ラブ』は、思いっきり遊んでますよね。これ、「Bメロは哀しげに歌うよ」ってフレーズが出てきたときに、「やっぱり、僕は天才なんだな!」と思いましたもの(笑)。…まあ、それがまた、僕の分かりにくさの根源なんだろうけども。(作風において)お客様に分かりやすく安心感を与えるタイプのアーティストと、「…この人、一体何がしたいの?」と振り回すタイプがいて、もちろん僕は後者だし、多面的でありたいんですよね。その方が僕的には楽しいんですよ。また、そういうアーティストが好きだし。

──今のミッチーの音楽が好きだという人は、そういう部分も込みで、心に響いてくるんでしょうね。

そうだったらうれしい。何て言うのかな…結局、ジャンルってコーディネートだからね。(アレンジやサウンドは)ファッションであってさ。歌を主体として、その着せ替えやコスプレを楽しみたいと。

──ええ。そういうミッチーが放つ最新のオリジナルアルバムが、昨年発表した『BE MY ONE』。最新の洋楽のビート感も織り交ぜた、本当にいろんな要素をブレンドした良いアルバムで──

うん、これはひとつの到達点ですね。…僕、アルバム用の資料に何てキャッチコピーを付けてました?

──(資料を見ながら)「50歳を迎えてさらに円熟味を増した及川光博のニューアルバムは、渋くて踊れて、純粋な大人の恋を歌ったロマンティック・ソウル!」です。

そう、ロマンティック・ソウル!! ああ、カッコいい!(笑)

──(笑)この“ロマンティック・ソウル”って言葉も自分で考えたんですか?

そうです(笑)。

──でもこれ、本当に、今のミッチーの音楽を象徴する言葉としてぴったりの、素晴らしいキーワードだと感じましたよ。

ありがとうございます! こう…生ハムとイチジクって言うか、甘酸っぱい強炭酸と言うか…ホント、いいよなぁ…。

ALBUM 「BE MY ONE」 2020

──…悦に入ってます(笑)。でね、そんな去年のアルバム『BE MY ONE』より、タイトル曲と『Shake me, darlin’』が今回のベストに収録されます。特に後者の『Shake me, darlin’』はモロにライブをイメージした楽曲のようですが?

はい、年末のライブでやって、もう既に人気曲ですね(笑)。…また、これも今しゃべってて気づいたんだけど、各アルバムから2~3曲ずつ今回のベストに入ってますけど、結果、ふざけたりはしゃいだりする楽曲と、真面目に愛と哲学に向き合っている楽曲が散りばめられている感じですよね。それは、デビューのころの『モラリティー』と『死んでもいい』みたいな感じで──デビューシングルがその2曲のカップリングだったところから僕の方向性は決まっていたわけで…。

──それが今も続いているっていう。逆に聞くと、今回のベストはどういう基準で各アルバムから曲を選んでいったんですか?

もちろん全体の流れは意識しましたけど、ライブ等での人気楽曲と僕自身が大好きな曲をチョイスしていったら、こういう結果になって。

──やはり、こういう二面性が自然と表現されてしまうんですね。

うん、きっとそういう性格なんですよ。昔、リリー・フランキーさんに言われたことがあって。「ミッチーは、ロマンティストでありながら、リアリストでもある。だから面倒くさいんだよ」って(笑)。その指摘はよく分かるのね。で、さっきも言いましたけど、そういった分かりにくい側面のあることが大ヒットにつながらない原因なんでしょうが…、でも僕は、その判断を聴いてくれる人に委ねたい。なぜなら、僕としてはベイベーたちに参加意識を高めてほしいわけよ。このミッチーというムーブメント──多面的な表現活動を、多様性を持って楽しんでほしいんだよね。

──はい。そしてもう1曲、昨年のアルバムのタイトル曲『BE MY ONE』について。これはミッチーらしいポップ感とソウル感が合体した、サウンド面の気持ちよさが光る楽曲ですけど?

ホントだよね。この『BE MY ONE』に関しては、トラックメイカーと呼ばれる、いわゆる楽器のプレイヤーではない人の感性を重視した音なんですよ。それが今風(いまふう)っちゃ今風だし、そういう作り方ができておもしろかったです。結局さ、僕が過去に影響を受けたあらゆるアーティストのサンプリング音源を切り貼りしているような、要は「ミッチーというもの自体がコラージュなんだ!」という、ある種の開き直りですよね。でも、開き直ったときってね、人間、楽しくなるんですよ!

──何でもできちゃう、ってことでしょうから。

そう。オマージュとかリスペクトとか言い方はいろいろあるけれども、「この音が好きだから、そのまま打ち込んでしまおう!」っていう、やり口。モノマネと独自性のミクスチャー!(笑)