──でね、あわせてビクター期のオリジナルアルバムにも触れながら今回のベストアルバムのインタビューを進めていきたいんですが──2015年の『男心DANCIN’』は、先ほども話題に出た通り、ミッチー史上唯一、他者に全曲プロデュースを委ねたアルバムであり、音の質感が他と違うので、あのアルバムからは『ダンディ・ダンディ』のみ、それも新録で収録したというのは納得です。で、その翌年2016年3月に発表されたアルバム『パンチドランク・ラヴ』からは、この『ウィークエンド・ランデヴー』含め3曲も入っているという。これについては?
やっぱり、とても良いアルバムだったし、とても良いツアーだったし…結果、今作に3曲入ったってことかな。と言うか、基本、どのアルバムもどのツアーも、悔いはないですよ。(反省点は)「ベースがちょっとデカいかな」くらいで(笑)。
──(笑)またそれですか。ちなみに、そのアルバム『パンチドランク・ラヴ』リリース時にビクターが作ったアルバム資料が僕の手元に残っていまして。そこには「笑顔の花咲く春! ミッチーのロマンチックでハッピーなダンスチューン・アルバム」というキャッチコピーが付いていたんですよ。
はい。…そういうキャッチコピーまで、自分で考えてるんです(笑)。
──(笑)そんなアルバム『パンチドランク・ラヴ』から収録された他の2曲は──『Wish』にしても『メロディアス』にしても、ポピュラリティが高くて、文字通りメロディアスな、良い曲ですよね。
意識しましたね、それは。『パンチドランク・ラヴ』は、“ポップス”というものを強く意識したアルバムでしたから。
──分かります。そうして軽やかなポップス道を追求しながらも、歌詞には人の心の機微みたいな部分をちゃんと織り込んで作品にしているところがまたミッチーらしくて。
ありがとうございます、そこをちゃんと言っていただけて。『メロディアス』で言うと、“作詞家・及川光博”としてのポイントは、Bメロの「心が壊れそうになる 現実の苦しみから」のくだりね。そこはアイドルが歌ってはいけないって言うか(笑)…、そこで急にズシッとした人間の“生きる痛み”を描こうとするんですよ、僕は。それが独自性の表れでもあるし。何と言うか…、きっと若かりし頃から、ちょっとした人間のダークサイドに敏感であったんだと思うんです。そういうところが歌詞にも自然と出るんでしょうね。
ALBUM 「パンチドランク・ラヴ」 2016
──ええ、そこもこのインタビューを読んでいる人に知っておいてほしいポイントです。オリジナル曲の歌詞はすべてミッチー自身が手掛けていて、苦みも含めた“人間味”というのを多くの曲で表現してきた歴史に、このベストで改めて気づくことができるというね。で、ベストアルバムの曲順に沿って話を戻すと、オープニング曲『ウィークエンド・ランデヴー』に続く2曲目には『今夜、桃色クラブで。』が出てきて…。
いきなり98年に戻るっていう(笑)。
──はい。でもこの流れで聴くと、時の経過など感じさせず、今のワンマンショーにも通じるミッチー節が確実に伝わってきますが?
そうだね。この『今夜、桃色クラブで。』もさ、(曲の構造が)ジェイムス・ブラウンに代表されるファンクのコード進行とベースラインでグルーヴしながら、サビでポップに突き抜ける! そしてハレンチ! これを20年以上も前にやってたんだから…いやぁ、もう、全然ブレてないね!!
──(笑)まさに。そんな『今夜、桃色クラブで。』から『ダンディ・ダンディ<2021>』と進み、さらに『Shinin' Star』というミッチーの王道曲が登場して──。
『Shinin' Star』は、まさに王道です!
──そして、アルバムはファンクギターが突っ走る『Lazy』へと続いていきます。この『Lazy』はもう、ミッチーの趣味全開、お客さんのことはほとんど考えずに作った曲でしょう?(笑)
いやいや、そう言われちゃうと……そうなんですけども(笑)。まあ、僕の本質ではありますがね。…先に言っておくとね、今回のベストアルバムでなぜ僕がウキウキしているかと言うと、初めてアナログ盤を出すことになりまして──しかもアナログ盤は2枚組で。要は「A面・B面×2枚」なわけですよ。そこでちょうど4曲ずつ、各面が良い感じで収まるように曲順を決めたんです。だから、1枚目のA面が『Shinin' Star』で終わり、ひっくり返してB面をかけると『Lazy』から始まるっていう。で、僕はその1枚目のB面が大好きなんです!
──『Lazy』~『アクアリウム』~『紅のマスカレード』~『BE MY ONE』という流れですね。
そうそうそう(笑)。お色気のメドレーリレーですよ!
──(笑)しかし、それにしても『Lazy』のエロティックなギターのカッティングは、何とも艶っぽくて最高ですねぇ。
ああいうのはもう、プリンスの影響ですよね。本当に80年代から僕が憧れていた音楽ですよ。
──そういうエロティックなファンクナンバーの後は、『アクアリウム』でさらに大人のソウルワールドへ誘うという。
そうそう。良いよねぇ、『アクアリウム』も。またあの曲は、ずっと共に戦ってきた親友のリエちゃん(コーラスの伊藤理枝)の作曲ナンバーですけど、これがまたシャレオツな曲でね(笑)。ループするコード進行なんだけど、メロディの展開が彼女らしくて。
ONE MAN SHOW TOUR 2018 「BEAT&ROSES」
──ミッチーでは書けないタイプの曲ってこと?
あのね、色気の方向性が違いますよね。リエちゃんの曲って、香りまで楽しめると言うか…何か、アロマオイルのような、しっとり感があってさ。となると、もちろん曲(メロディー)先行で作ってますから、作詞家として自分も自然とその世界に誘導されて、使いたい言葉が、それこそうたかたのように出てくるわけ。何と言うか…イメージで言うと、僕が(メロディーも)作る楽曲はサウナや大浴場みたいな感じ。でも、リエちゃんが作る曲は、バスタブで泡々(あわあわ)な感じ?
──…あまりよく分からないたとえですが(笑)。で、続く『紅のマスカレード』も、ローズ高野さんとの共同アレンジ楽曲です。こちらはラテンのポップフレーバーがすごく強い仕上がりですが?
これまた素晴らしい! 高野さんは大学時代の軽音楽部の先輩です。そういう人と、インディーズの頃から一緒に曲を制作する関係でいるっていうのも嬉しいですよね。本当に、恵まれています。…で、この曲はズバリ、古き良き郷ひろみさんの世界! 実際、郷ひろみさんの世界観を目指しました。
──その『紅のマスカレード』と『アクアリウム』に加え、今回のベストには、アルバム『FUNK A LA MODE』からもう1曲、『炎上!バーニング・ラブ』が入っていますね。
これは大好き! …いや、「これも」か(笑)。
──(笑)強烈なバンドサウンドで、ライブでより映えるタイプの楽曲です。
もうね、歌詞にある通り、まさに“血湧き肉躍るようなビート”なんですよ。で、それはさかのぼること、僕が高校時代に聴いていた爆風スランプとか、ああいう先達の暴れっぷりのフィードバックだと思う。だから今でも、聴いて踊らずにはいられないし…。
──自分でも、ってこと?
そう、まず僕自身が。だってね、このベストアルバムのサウンドチェックを自宅でしているときも、結局は踊ってて(笑)。誰かが隠しカメラで見てたら、「…こいつ、アタマおかしいんじゃないか?」って思うと思う(笑)。ガンガン踊っているわけよ、ヘッドホンをしながら。
──(笑)まあ、それもまた、そういう生音を出してくれる今のバンドメンバーとの出会いに感謝ですよね。
…あきれてません?(笑) まあ、実際、ザ・ファンタスティックスというバンドありきの音楽活動に今はなっているので──うん、彼らには大変感謝もしているし、僕のひらめきを実現させるために欠かせない人脈です。みんなそれぞれが、プレイヤーでありプロデューサーでありアーティストとして活躍している人の集合体ですから。そこはやっぱり、2012年から3年間、「及川光博&THE FANTASTIX」名義でアルバム3部作を出したこと、アレが僕に大きな影響を与えてくれたんですよ。
──『炎上!バーニング・ラブ』の作曲&編曲を担当したベーシストの御供信弘さんもザ・ファンタスティックスのメンバーで、及川光博の音楽性を培ううえで大きく貢献してくれた一人でもあるという。
ええ。本当に、力強い1曲だよね。